脱・アナログ避難所|「紙と電話」の限界を越える現実的なデジタル化とは?

「受入簿はどこだ!」「毛布が足りない!」「A避難所は今、何人受け入れているんだ?」

災害発生直後の避難所。鳴り響く電話、飛び交う怒号、何冊ものバインダーを抱えて走り回る職員。これは、多くの自治体で繰り返されてきた光景です。

多くの職員が「非効率だ」「何とかならないか」と感じながらも、目の前の対応に追われ、先送りになっていることも多いのではないでしょうか。

本コラムでは、「いつか来るかもしれない」災害対策の不安を、「5つの致命的リスク」としてリストアップします。もし一つでも「うちの自治体のことだ」と感じたら、それは変革の第一歩かもしれません。

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はじめに

「受入簿はどこだ!」「毛布が足りない!」「A避難所は今、何人受け入れているんだ?」災害発生直後の避難所。鳴り響く電話、飛び交う怒号、何冊ものバインダーを抱えて走り回る職員。これは、多くの自治体で繰り返されてきた光景です。

多くの職員が「非効率だ」「何とかならないか」と感じながらも、目の前の対応に追われ、先送りになっていることも多いのではないでしょうか。

本コラムでは、「いつか来るかもしれない」災害対策の不安を、「5つの致命的リスク」としてリストアップします。もし一つでも「うちの自治体のことだ」と感じたら、それは変革の第一歩かもしれません。

「5つの致命的リスク」とは?

早速、リスクを順番に見ていきましょう。

【リスク1】初動の命運を分ける「避難者情報」の把握遅れ

災害対応の鉄則は「初動72時間」です。しかし、紙の受入簿ではどうでしょうか。

  • 「今、何人いるのか」が、手集計が終わるまで分からない。
  • 「誰が(氏名、年齢、性別)」が、本部でリアルタイムに把握できない。
  • 「特別な配慮(要介護者、乳幼児、アレルギー等)」が必要な人が、膨大な紙の中に埋もれてしまう。

この「分からない」状態が続くことこそが、最大の足かせです。正確な人数と属性が把握できなければ、必要な物資も、必要な人員も、何もかも「勘」で判断するしかなくなります。これが初動の遅れに直結する、第一の致命的リスクです。

 【リスク2】善意が空回りする「支援物資」のミスマッチ

「A避難所ではパンが余って廃棄寸前なのに、B避難所ではおにぎり一個も行き渡らない」

これは冗談ではなく、アナログ運営では頻繁に起こる事態です。紙と電話による「物資要求」は、情報が古く、錯綜します。

  • 各避難所の現在の在庫状況が、本部で一覧できない。
  • 避難者の「真のニーズ(アレルギー対応食、粉ミルク、おむつのサイズ等)」が、要求リストに正確に反映されない。
  • 集まった支援物資を、勘と経験だけで割り振るしかない。

    結果として、善意で送られた物資が「ミスマッチ」を起こし、現場の不満と、貴重なリソースの無駄を生み出します。

【リスク3】職員を追い詰める「無限の電話対応と集計作業」

避難所運営を担う職員もまた、被災者の一人です。その職員が、なぜ疲弊しきってしまうのでしょうか。

大きな原因は「無限の問い合わせ」と「手作業での集計」です。

  • 本部、他部署、マスコミ、家族を探す人々から、ひっきりなしにかかる電話。「今、何人いますか?」「〇〇さんはいますか?」そのたびに、職員は受入簿をめくり、人数を数え直します。
  • 夜中には、各避難所の状況を電話で聞き取り、それをExcelに手入力して本部に報告する…。

創造的であるべき「判断」や「調整」の時間を、単純な「伝達」と「転記」作業が奪い尽くします。この極度の消耗が、職員の健康を害し、冷静な判断を鈍らせてしまいます。

【リスク4】「必要な人」に届かない安否確認と支援情報

避難所には、多くの情報が集まり、また発信されるべき情報があります。しかし、その手段が「紙の掲示板」と「職員の肉声」だけだったらどうでしょう。

  • 耳の不自由な方、目の不自由な方に、次の炊き出しの時間をどう伝えますか?
  • 家族が避難者名簿を閲覧しに来ても、どの避難所にいるか即座に回答できない…。
  • 「〇〇さんを探している」という問い合わせに、職員はバインダーをめくり続けることになります。

情報が「アナログ」で固定されているため、それを「必要とする人」の元へ届けるコストが非常に高くなります。安否確認の遅れは、被災者の不安を増大させる深刻なリスクです。

【リスク5】対策本部の「ブラックボックス化」と意思決定の停滞

最も恐ろしいのが、このリスクです。

各避難所が紙と電話で奮闘している間、災害対策本部は「現場がどうなっているか分からない」というブラックボックス状態に陥ります。

  • 電話をかけても、現場は対応中で繋がらない。
  • ようやく繋がっても、それは「1時間前の情報」かもしれない。
  • 全避難所の状況を一覧できず、どこにリソース(人員、物資、専門家)を優先的に投入すべきか、合理的な判断ができない。

現場の「生の情報」がデジタルで集約されていないため、本部の意思決定が停滞し、対応が後手後手に回ります。

「うちの自治体のことだ」と感じた方へ。立ちはだかる「2つの壁」

これら5つのリスクの根本原因は、すべて「情報の分断」です。そして、解決策が「情報のデジタル化・一元化」であることも、多くの職員のみなさんが理解されていることだと思います。しかし、いざデジタル化を進めようとすると、必ず「2つの大きな壁」が立ちはだかります。

1. 高すぎる「個人情報」の壁

「避難者名簿をデジタル化しよう」と考えた瞬間、まず問題になるのが「個人情報」です。

  • 氏名、住所、年齢、性別、健康状態(要配慮情報)…。
  • これらを扱うシステムには、厳重なセキュリティ、個人情報保護条例のクリア、複雑な導入手順が求められます。
  • このハードルの高さ故に、「平時の検討」が停滞し、結局「有事は(手続き不要の)紙で対応する」という結論に回帰してしまいがちです。

2. 「いつ来るか分からない」災害への「コスト」の壁

第二の壁は、コストです。

  • 高機能で厳重なセキュリティを持つシステムは、当然ながら高価です。
  • 「いつ起こるか分からない災害」のために、その高額な利用料を平時から継続して支出し続けることは、財政的に容易ではありません。
  • かといって、「災害が起きてから契約」では、肝心の「初動」に全く間に合いません。

突破口は「割り切り」と「平時からの備え」

では、どうすればよいのでしょうか? アナログの非効率は分かっている。しかし、本格的なデジタル化は「個人情報」と「コスト」の壁が高い。

このジレンマを解決するカギは、「何を諦め、何を最優先で得るか」という割り切りにあります。

5つのリスクを思い出してください。 初動で最も必要なのは、必ずしも「個人の氏名」でしょうか? いいえ、「今、どこに、どんな属性の人(年代、性別、要配慮の有無、アレルギー等)が、何人いるか」そして「何が足りていないか」という「統計的な実数」です。

もし、「個人情報(氏名・住所)を取得しない」と割り切ればどうでしょうか。

  • 導入のハードル(セキュリティ審査、条例対応)は劇的に下がります。
  • システムはシンプルになり、コストを大幅に抑えることができます。

コストが安ければ、「いつ来るか分からない災害」のために「平時から常時契約しておく」という現実的な選択が可能になります。

消耗から、「備え続ける」体制へ

災害対応は「有事が起きてから」では手遅れです。

アナログ運営の限界が見えている今、「高機能だが高価で、導入ハードルも高いシステム」を目指して平時に議論が停滞するよりも、「個人情報を扱わないことで低コストを実現し、平時から常に備え続けられる」体制を構築することこそ、今すぐできる最も確実な対策ではないでしょうか。

職員の無駄な消耗をなくし、本当に必要な支援を迅速に届けるために。「平時から備え続ける」という新しい選択肢を、ぜひご検討ください。

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