ごみ収集の方法のひとつに戸別収集があります。自宅前まで収集車が来る方式で、集積所を使う方式とは異なる収集方法です。
この記事では、戸別収集の仕組みや導入事例、自治体が抱える課題など、集積所収集との違いやメリットを詳しく紹介します。

戸別収集とは?
ごみ収集の方式には、主に自宅前で回収を行う戸別収集と、決められた場所にごみを持ち寄る集積所収集があります。
戸別収集は自治体によって導入が進められており、地域ごとの課題や住民の生活環境に応じた取り組みとして注目されています。戸別収集について基本的なところから解説していきます。
戸別収集の基本概念
戸別収集とは、家庭ごみを住民が自宅前や敷地入り口に出しておくと、収集車が直接回収する方式です。
従来のように地域の集積所まで運ぶ必要がなく、収集員が各世帯を巡回して効率的に作業を進めます。
ごみ出しに困難を感じている層のソリューションとして効果を発揮する一面も持つため、地域住民の生活環境の改善も期待できます。
例えば、重いごみや多量のごみを遠い集積所まで運ぶことに困難を覚えていた高齢者や身体障がい者、子育て世代など、幅広い層がごみ出しの悩みを軽減しやすくなる一面が期待できるでしょう。
また、国立環境研究所の報告では、戸別収集は分別意識の向上につながるとされており、ごみ出しの状況を収集員が把握しやすくなるメリットがあります。
各戸のごみを戸別で目にすることになり、ごみ出しの状況を正確に把握できるため、不適切なごみ出しを減らすことに繋がります。
住民が集積所の清掃や維持を担う負担が軽減される点も、メリットになるでしょう。

集積所収集との違い
集積所収集は、地域ごとに設置された場所に住民がごみを持ち寄り、決められた時間に収集車がまとめて回収する方式です。
一方、戸別収集では収集員が世帯を巡回するため、住民は重いごみを遠くまで運ぶ必要がありません。
集積所方式は地域の清掃当番や管理負担が伴ったり、カラスや猫による被害があったりなど、地域住民にとって不便な一面がありますが、収集車が家の前に入れないといった地域事情がある場合でも、確実にごみを出せるメリットがあります。
対して戸別収集は、多くの場合は自宅前にごみを出せるため、集積所の管理当番の負担や動物被害を軽減しやすく、分別意識の向上や不適切な排出の抑制にも役立ちます。
ただし、収集ルートの効率やコスト面では課題があり、自治体ごとのソリューションが必要になる一面もあるため、導入の際には多方面での課題検討が求められるでしょう。
戸別収集の導入事例
実際に導入している自治体の事例を見てみましょう。ここでは神奈川県の事例をピックアップします。
【鎌倉市】では、2025年から「燃やすごみ」について市内一部地区で戸別収集を開始し、2026年度には全市で実施する計画を公表しています。
【平塚市】では、一部地域にて「可燃ごみ」について戸別収集をすでに実施しており、今後全市への拡大を目指しています。利用者からは利便性やごみ排出マナーの改善について前向きな声が寄せられているようです。
【茅ヶ崎市】では2025年4月から一部地域で戸別収集実験事業が始まり、課題解決に向けた実験的取り組みが進められています。
各自治体に共通するのは、戸別収集が地域住民の高齢化や集積所管理の負担増に対応するための方策として位置付けられている点です。
住民に依存する管理方式は、地域によっては適切な収集環境を維持することが難しい状況になっていますが、前述の導入例を見ると、戸別収集の導入が新たなソリューションとして期待できることが分かります。
同様の環境にある自治体にとって、このような導入事例は今後の自治体施策を検討する際の参考になるでしょう。
将来的に高齢化や過疎化が懸念される地域においても、戸別収集は地域住民の生活の質を下げずに、暮らしやすさを維持する可能性が考えられます。
戸別収集を実施する目的
従来の集積所方式では地域の当番制や維持管理が負担になりやすく、地域住民に負担がかかる場面もありましたが、戸別収集はそのような課題に対応できる方法として注目されています。様々な目的の詳細を見ていきましょう。
集積所収集に伴う様々な負担の軽減(自治会・掃除当番など)
戸別収集を導入するメリットのひとつが、従来の集積所収集に伴う管理や清掃の負担が軽減される点です。
自治会や町内会では、設置場所の清掃やごみ置き場の環境維持を担当する当番制を採用していることも少なくありません。
しかし、近年は自治会加入率の低下に伴い、当番のなり手が確保しづらくなり、掃除当番を巡る不満やトラブルが増えているといった問題も生じています。
戸別収集であれば、地域住民にとってそのような課題を解決しやすくなるとともに、ごみ出しの利便性に影響がありません。
このように戸別収集は、地域住民が担当していた清掃や管理業務をなくし、自治体が直接管理する仕組みに移行することで、地域の不公平感や精神的負担を取り除く役割を果たします。
ごみの適正な排出
戸別収集の導入は、ごみの適正な排出を確保しやすいというメリットにもつながります。
集積所方式では、一部の住民がルールを守らない場合、分別が不十分になってしまう事例や、収集日前日の夜から放置されるなどの不適切なごみ出しが問題視されることも少なくありませんでした。
しかし、戸別収集によりごみ出しの状況を収集員が直接確認できるため、不十分な分別や時間を守らないといった問題行為を減らす効果が期待できます。
前述の通り、戸別収集は自分が排出したごみに責任を持つことが期待されるため、分別意識を高め、適切な処理につながる可能性が示されています。
ごみの出し方が改善されれば、収集効率の向上やリサイクル率の改善にも結び付き、結果として環境保全にも寄与するでしょう。
利便性向上、ごみ出し困難者の支援(高齢者・子育て世帯)
戸別収集は住民の利便性を高めるだけではなく、ごみ出しに苦労する人々への支援策としても有効です。
従来の集積所方式では、重いごみを持って数百メートル歩く必要があり、高齢者や障害を持つ人、乳幼児を抱える子育て世帯にとって負担になっていました。
戸別収集導入により、このような人々のごみ出しの労力を軽減することが期待できます。戸別収集は社会構造の変化に合わせて適切なサービスを提供し、誰もが安心して生活できる環境づくりに寄与するでしょう。
自治体による戸別収集導入の課題
戸別収集は住民の利便性や環境面への効果が期待されますが、導入にあたって自治体はいくつかの課題に直面します。とくに、費用負担や道路事情への対応、住民理解を得るための取り組みは重要になるでしょう。順に詳細をみていきましょう。
費用の増加、受益者負担の考え方
費用の増加は戸別収集の導入にあたって直面しやすい課題のひとつです。
集積所方式と比較すると、収集ルートが細分化されるため、人件費や車両コストが膨らみます。
必要数が上がるということは、人件費や車両コストが上がるということでもあり、新たな予算の準備が必要になります。
しかし、その費用ももとは地域住民の税金から捻出されるため、コスト増に関して地域住民から疑問や不満が出る可能性は否定できません。
費用増加をどのようにカバーするかは、財源の確保や地域住民の理解を求めるなど、戸別収集を進めるうえで欠かせない論点になるでしょう。
個別収集できない世帯への対応(狭隘道路など)
戸別収集は全ての世帯に一律に適用できるわけではありません。
道路が狭い地域や収集車両の進入が困難な場所では、従来の集積所を併用せざるを得ない場合もあります。
狭隘道路や特定の住宅環境では戸別収集の実施が難しくなり、地域事情に応じた柔軟な対応が求められるでしょう。
道路環境や住宅密集度などの条件に応じて、収集方式を組み合わせ、自治体は公平性を保ちながら、個別対応を進める必要があります。
住民の理解と関与(鳥獣被害など)
従来の集積所方式では、カラスや猫などによる鳥獣被害がしばしば問題になり、戸別収集はその問題にも効果があると考えられています。
鳥獣によるごみの散乱は、見た目が不快なだけではなく、地域の衛生環境を悪化させる原因にもなるため、可能な限りの対策が必要です。
今までごみに鳥獣避けのネットをかける、ごみ出しの時間を守るなどの対策を実施していても、その効果が不十分だった地域では戸別収集が新しい対策として有効になるでしょう。
しかし、戸別収集に移行したからといって即座に解決するわけではありません。
例えば、ごみ出しの時間を守らずに前日からごみを出したり、分別が不十分な状態であったりすれば、収集時刻までに鳥獣がごみを荒らす可能性があります。
そのような事態を防ぐためには、住民に対して収集時間を厳守することや、ルールに沿った適切なごみ出しを徹底するよう、自治体側が啓発を行う必要があります。
また、地域の人々が自らルールを守るだけでなく、周囲と声をかけ合いながら協力していければなおよい結果につながるため、併せて啓発や声掛けなども望ましいでしょう。
まとめ
ここまでご紹介した通り、ごみ収集の方式を検討する際には、戸別収集と集積収集それぞれの特徴を踏まえて選択することが求められます。どちらも一長一短があり、地域の事情や住民の生活環境を考慮しながらの判断が求められるでしょう。
戸別収集か集積収集かの選び方
戸別収集と集積収集のどちらを採用するかは、地域の特性や住民ニーズに左右されます。
集積収集は収集効率が高く、費用を抑えやすい利点がありますが、集積所の清掃や管理を住民が担う負担が課題です。
一方、戸別収集は住民の利便性が高く、適正な排出を促す効果が期待できますが、収集ルートが複雑化するためコストが増加しやすい側面があります。
どちらを選ぶかは単純なメリット・デメリットの比較だけではなく、地域における効率性や公平性、費用と利便性のバランスなどを総合的に考慮する必要があるでしょう。
戸別収集に向いている自治体
戸別収集が導入しやすい自治体にはいくつかの条件があります。
例えば、高齢化が進み集積所までのごみ出しが負担となっている地域では、戸別収集が住民の生活を支える効果を発揮します。自治会の加入率が低下し、集積所管理の担い手不足が顕著な地域でも導入の意義があるでしょう。
鳥獣によるごみ散乱被害が問題になっている地域では、ごみ出しの時間や方法を統一しやすい戸別収集が適しています。ただし、道路が狭く収集車両が進入できない地域や財政負担が大きい自治体では課題も残ります。
戸別収集は万能の解決策ではありませんが、住民の暮らしやすさを重視する地域にとっては有効な選択肢です。
住民の理解を得ながら段階的に進め、自治体と地域にとってよりよいごみ収集の形を実現させていくことが求められています。