スマートシティへの取り組みが加速しています。新しい技術を活用したスマートシティの構想は、公民ともに今後さらに注目されていくでしょう。
この記事では、スマートシティの概要や利点、今後の展望などについて、取り組み事例を交えながら詳しく解説します。
スマートシティとは
スマートシティは政府が主導する持続可能な環境都市の構築を指しています。概要や目標、メリットなどについて見てみましょう。
スマートシティの概要
内閣府や国土交通省は、平成30年8月にリリースした「スマートシティの実現に向けて」にてスマートシティの定義を示しています。同資料によると、「先進技術を活用した持続可能な都市」を目指す概念です。
※参考:スマートシティの実現に向けて/国土交通省都市局 P2-3
スマートシティはICTやAIといった先端技術を駆使した都市が該当します。具体的にはエネルギーや交通、行政サービスなどのインフラを、効率的、かつ、最適化された形で整備・運用することにより、持続可能かつ環境配慮型の特性を持つ都市です。
技術革新と持続可能性が融合した新しい都市モデルは、未来の都市開発が現実になったといっても過言ではありません。スマートシティの機能によって市民の生活の質を向上させ、生活環境を便利で快適にすることが期待されています。
スマートシティの目標
スマートシティの大きな目標は、都市化にともなう課題を解決し、環境変化に柔軟に適応しながら、誰にとってもよい生活を持続的に向上させることです。
日本では人口減や高齢化、渋滞などさまざまな社会的課題があります。そのような課題に対処するため、「未来投資戦略 2018-Society 5.0(ソサエティ5.0)」において、「次世代の街づくり」としてスマートシティ構想が取り入れられました。
※参考:未来投資戦略 2018-Society 5.0(ソサエティ5.0)/首相官邸 P8
スマートシティ構想では、ビッグデータを駆使して交通網を見直し、再生可能エネルギーの活用をはじめ、多岐にわたる施策を官民協力で進めることが推進されています。
スマートシティのメリット
スマートシティの実現には多数のメリットがあります。
まず、持続可能な都市を実現できる点です。効率的なエネルギーの利用や再生可能エネルギーの導入、交通網の最適化などが融合することにより、環境への負荷を軽減し、生態系や資源の保護が可能になります。
また、防災や減災にも大きな効果が見込まれています。センサーやリアルタイムで収集したデータの活用により、自然災害や災害時の避難誘導の迅速性や正確性が向上し、被害を最小限に食い止めることが期待できるでしょう。
さらに、ビジネスチャンスの創出する可能性も見逃せません。新たな技術やサービスの導入により、産業の多様化や新しいビジネスモデルの形成が可能になります。地域経済の活性化、雇用機会の拡大など、多方面でのメリットが生まれるでしょう。
具体的な取り組み事例
スマートシティへの取り組みはすでに各方面で始まっています。取り組み事例の一部をご紹介します。
スマートホーム
スマートホームは、子育て世代や高齢者、単身者など、幅広い層のライフスタイルやニーズに合わせたIoTサービスを提供する新しい生活概念です。
たとえば、家電製品をインターネットで連携させ、スマートフォンや音声でコントロールすることもスマートホームの一例です。エネルギーの無駄を削減し、光熱費の節約が可能となるとともに、複雑な操作が不要になる一面も持っています。
スマートホームはすでに浸透が進んでいます。スマートフォンを通したリモートコントロール、スマートスピーカーの音声認識、自動ロックや防犯カメラの導入、省エネ機能を備えた照明など、すでに利用している人も多いのではないでしょうか。
スマートグリッド
スマートグリッドとは、送配電網に専用のソフトウェアやIT機器を組み込んだ電力ネットワーク供給システムです。電気の供給と需要を双方向でコントロールできる構造になっています。
例としては、一般家庭や企業で使われているスマートメーターが挙げられます。電気使用量をデータ送信することにより、リアルタイムでエネルギーの需要・供給が把握できる仕組みです。効率的な送電やトラブルの把握が可能になり、電力の安定供給につながります。
交通のスマート化
交通のスマート化は、街中に配置されたカメラやIoTデバイスから得られるデータを活用するシステムです。
具体的には交通センサーやカメラを通じて、渋滞や事故の情報をリアルタイムで把握し、適切なルート案内や交通制御を行います。
交通のスマート化により、市民は移動がスムーズになります。最適な経路を選択しやすくなるため、移動にかかるコストの節約が実現するでしょう。
効率的な移動の促進は、都市の交通インフラを最適化する一環として、現代都市の社会的課題に対応する重要な取り組みです。
廃棄物管理のスマート化
廃棄物管理のスマート化では、IoT技術を活用し、ごみ収集所の蓄積量を測定し、データの取得がおこなわれます。リアルタイムなデータ収集により、ごみ収集の効率が向上し、不要な廃棄物の発生を減らすことを通し、環境への負荷を抑える効果も期待されます。
自治体や民間の廃棄物処理業者が適切なタイミングでごみを回収したり、市民がごみ処理場を効率的に利用したりできるようにすることも重要です。すでにサポートサービスが開発されており、インターネットやスマートフォンアプリを利用した粗大ごみ受付管理システムを導入した自治体もあります。
スマートシティの未来展望
スマートシティを推進することは、どのような未来展望につながるのでしょうか。エネルギー面、生活面、地域社会、環境保全など、多方面での発展が期待されています。
エネルギー効率の向上
スマートシティの未来展望において、建物や家電製品のエネルギー効率の向上は重要です。断熱性能の向上やLED照明の導入など、エネルギーの無駄を減少させ、環境への負荷を軽減するさまざまな取り組みが行われています。
とくに日本では、太陽光発電システムと蓄電池ユニットを組み合わせたスマート住宅の標準化が進んでいます。標準化の促進は、自家発電や蓄電を活用した住宅単位でのエネルギーの効率性向上が見込まれる注目の要素です。
生活の利便性向上
都市の機能やサービスを効率化・高度化し、生活の利便性が向上することもスマートシティの未来展望における重要な課題です。
前述の通り、ICT技術を活用したスマートホームの導入や、スマートフォンアプリを活用した交通情報提供などがすでに進行しています。従来よりも利便性を感じるようになった層も増えていることでしょう。今後も大きな発展が期待される分野です。
地域社会への貢献
地域社会への貢献にも期待が寄せられています。生活の質向上、防災・減災、交通状況の改善など、地域にはさまざまな課題が存在しますが、新しい技術の活用により、対処しやすくなると考えられるためです。
データ分析やセンサーネットワークを通じて得られる情報は、地域の課題を的確に把握し、迅速で効率的な解決策を導き出す有用な手段です。また、そのようなサービスの事業化によって地域の新たな雇用創出も期待されています。
環境保全の推進
スマートシティの未来展望では、環境保全の推進も重要視されています。新しい技術を活用した環境システムでは、リアルタイムで情報を分析し、環境保全行動につなげられる強みがあると考えられています。
たとえば、空気や水の質などの環境情報をセンサーなどで収集し、異変が検知された場合には即座に対応できるシステムを構築すれば、都市のインフラ維持で非常に重要な役割を果たせます。
環境の変化に敏感に対応できるということは、早期の問題解決が可能となり、住みよい都市環境確立の推進につながるでしょう。
スマートシティへの取り組みの現状
スマートシティへの取り組みについて、国内外の事例を見てみましょう。
国内のスマートシティ事例
【東京都板橋区】
日本の食品ロスは年間600万トンにもおよび、長年問題視されている大きな課題です。東京都板橋区では、食品ロスを減らし、有効活用するサービス「いたばし×タベスケ」に取り組みました。
賞味期限、消費期限が近い食品は、従来なら廃棄の可能性が高くなるのですが、価格を下げてタベスケのサイトでアピールすることにより、その食品を必要とする人が手軽に購入しやすいシステムが構築されています。
【大阪府箕面市】
大阪府箕面市では、自治体の廃棄物回収をサポートするサービス「ソダイシス」を導入し、スマートフォンから粗大ごみの持ち込みを予約・管理できるシステムを構築しました。
従来のアナログシステムでは効率的な予約処理ができず、市民がごみを持ち込んだ時点で2時間もの待ち時間が発生することもありましたが、導入後は待ち時間の短縮や混雑の解消が実現しています。
海外のスマートシティ事例
【スペイン・バルセロナ】
スペイン・バルセロナでは2000年代から街中にセンサーを設置し、データを収集するシステム「センティーロ」を運用しています。
収集されたデータは水道システムの管理や街灯のコントロール、交通渋滞のコントロールなどに活用され、無駄なエネルギーの削減やスムーズな交通環境の実現につながりました。
【シンガポール】
シンガポールでは3D技術を活用した「バーチャル・シンガポール」が導入されました。地形、交通インフラなど、国土全体を3D化し、リアルタイムでデータを収集するシステムです。
また、多彩なシミュレーションができる機能も搭載されています。これにより、交通や環境の管理や適切な誘導、発電量のチェックなどが可能になり、人々の生活の質向上において大きな貢献を果たしました。
日本政府の取り組み
日本政府ではスマートシティ推進体制を構築し、データ利活用型スマートシティ事業をおこなう地方公共団体や企業向けに初期投資や体制整備のサポートを打ち出しています。
また、スマートシティ推進のため、官民連携プラットフォームも発足しました。民間企業や研究機関、地方公共団体などが会員となり、さまざまな業種が参画しています。
民間企業の取り組み
【NTTコミュニケーションズ】
NTTコミュニケーションズは「BizCITY」を開発・提供しました。高い信頼性とセキュリティを備えたネットワークと、必要なソフトウェア機能のみを提供するSaaS(Software as a Service)の包括的なサービスです。
スマートシティの構築にはなくてはならない優れたサービスは、今後の日本におけるスマートシティ推進を力強くサポートするでしょう。
【川崎重工業株式会社】
川崎重工業株式会社では、5Gを活用した自動配送ロボットの開発を進めています。将来的な運用に向け、2022年1月には実証実験がおこなわれました。
効率的な配送システムの構築はスマートシティの実現に不可欠です。実用化に向け、技術面、運用面、事業面における課題の解消が期待されています。