これは意外! ごみ有料化のシン常識 有料化の市民意向調査は民意を引き出せたか【連載第3回】

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ごみ減量資料室代表・東洋大学名誉教授
山谷 修作

もう20年以上前になるが、家庭ごみ有料化の検討を行った東京都町田市廃棄物減量等審議会で会長を務めたことがあった。検討の過程で、有料化導入について市民意向を把握することを狙いとして、アンケート調査を実施した。その結果は、図1に示すように、有料化導入に賛成31.2%、反対41.7%と、反対が賛成を10ポイントも上回り、大変がっかりしたことを鮮明に記憶している1)。年齢でみると若い層、そして居住年数の短い市民の反対比率が高くなっていた。

注 1)アンケート調査結果は反対意向が賛成を上回ったが、審議会の答申は有料化実施を是とする内容に落ち着いた。審議会は反対意向を踏まえた上で、手数料収入を基金に繰り入れるなど有料化制度の可視化を重視し、市民の理解と協力が得られるような制度の設計・検討にあたった。

(注) 実施2003年8月、調査対象2,000名 
(出所)町田市「市民アンケート調査最終集計結果」2004年3月                                                                                     

当時、市区町村が実施する市民意向調査は、有料化導入に「賛成」、「反対」、「どちらともいえない」、「その他 (自由記述欄付き) 」が一般的であった。このタイプの質問に対する回答結果は、賛成15%程度、反対50%近くが多かったと記憶する。「今まで無料で出せたごみが有料になるけどどう思う?」と聞かれるようなもので、反射的に「タダの方がいい!」と答える人が多くなる。そして、「どちらともいえない」の比率もかなり高いものとなりがちだった。そこで、もう少し民意を引き出しやすくする工夫として、町田市審議会では賛成、反対いずれにも「どちらかといえば」を加えて、消極的な賛成・反対意向の掘り起こしを企図したのであった。

このように、当時の市民意向調査においては有料化導入に賛成する比率が反対を上回ることはまず期待できなかったから、審議会の検討過程においても一般的な市民意向調査は行わないケースも結構見られた。それに代えて、説明会やタウンミーティングなどの参加者を対象としたアンケート調査を実施する自治体もある。筆者が基調講演やパネリストで参加したある政令指定市の場合もそうであった。会場参加者アンケートでは、ごみ減量に関心の高い市民が集まることを反映して、賛成が反対を上回る傾向がある。

東京都小平市では、早い時期に審議会が有料化を実施すべきとする答申を市に提出し、一般廃棄物処理基本計画にも有料化が重点施策として位置付けられていたが、実施への歩みははかばかしいものではなかった。有料化実施を遅延させた要因の一つは、市民アンケート調査の結果であった。2013年5~6月に2,000世帯を対象に行った調査では、図2左円グラフに示すように、有料化導入について賛成がわずか16.8%にとどまったのに対し、反対が45.6%にも及んでいた。

市民アンケートの結果は芳しいものではなかったが、市には強力な減量施策に取り組まざるを得ない事情があった。市のごみの焼却処理は近隣3市共同して、小平市内にある一部事務組合の施設で行っている。その施設が老朽化し、数年後に建て替えが必要とされていた。建て替えにあたっては工事期間中、他団体にごみ処理の支援を仰がなければならない。そうした事態が数年後に迫る状況のもとで、有効性の高いごみ減量方策として、有料化の導入が不可欠と考えられたのであった。

そこで、市は民意をよりきめ細かく反映できるようにアンケート調査票のつくりを工夫して、再度調査を実施した。2016年11月に前回と同数の世帯を対象に行った市民アンケート調査は、市が有料化に向けて具体的な行動に踏み込むことを支持するものとなった。有料化導入について「賛成である」と「ごみ減量の効果があれば導入はやむを得ない」を合わせた賛成意向が44.8%で、「反対である」と「ごみ減量の効果があっても導入には抵抗がある」を合わせた反対意向の42.8%を上回った2) (図2右円グラフ)。

注 2)市民アンケートの結果を踏まえて、小平市は2017年4月有料化実施の基本方針の策定、その翌年実施計画の策定、議会での条例改正と進め、2019年4月に有料化を実施している。

(出所)小平市各次一般廃棄物処理基本計画所収

賛成意向が増えたのは、回答者が有料化導入の是非を判断するときに、経済的負担の増加だけでなく、ごみ減量の効果にも留意できるように、回答の選択肢が工夫されていたことによる。前回のアンケート調査のように有料化導入に賛成か反対かと単純に問われると、現状維持をよしとする(人間に備わった)保守的性向に加えて、経済的負担への懸念もあって、ごみ減量などの利点に思い及ぶことなく、ストレートに「反対」と意思表示されがちだ。その点、回答の選択肢に「ごみ減量の効果」が示されると、少し立ち止まって「それなら」とか「それでも」と、判断をより慎重にしてもらえることとなる。

実際のところ、多数の市民は、有料化導入についてストレートに賛成とか反対というよりも、一定の条件が満たされるなら賛成してもいいとか、それでも少し抵抗があるなあ、といった受け止めをしているはずである。その意味で、2016年調査は民意を引き出す上で、2013年調査よりはるかに優れていたと言える。

有料化実施前の有料化についての受け止めは、有料化を実際に経験した後にどう変化するか。この種調査を実施した有料化自治体は残念ながらこれまで存在しなかったと思う。こうした調査を実施する機会が小平市で有料化実施の3年後に訪れた。市が2022年4月に2,000世帯を対象として「資源・ごみに関するアンケート調査」を実施するとき、審議会会長の意向として、有料化実施前の2016年調査と比較できる形で、有料化導入後の受け止めについての質問を設けさせてもらった。

その結果は、図3に示すように、有料化実施の前後で有料化を肯定する意見(賛成・減量効果あれば賛成、減量効果あって理解・減量以外の理由で理解)の比率が44.8%から71.7%に上昇し、否定的意見(反対・減量効果あっても抵抗感、理解できず・減量効果あっても理解できず)の方は42.8%からわずか9.5%に急減していた。有料化を実際に経験して、ごみ減量・分別意識の高まりや減量効果を実感し、戸別収集への切り替えもあって心配した不適正排出や不法投棄の目立った増加も見られなかったことなどが市民に評価されたものと思われる。

(出所)小平市各次一般廃棄物処理基本計画所収

有料化導入の参考資料として市民意向調査を実施する場合には、民意をきちんと引き出せる調査票のつくりを心がけたいものである。また、制度の設計が適切で、制度運用可視化の配慮や不法投棄・不適正排出対策への注力もなされるなら、有料化導入後に市民の支持が高まることも期待できよう。
  

【筆者主要著書】
『ごみ減量政策』

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