地方創生の一手として、注目される「デジタル田園都市国家構想」。デジタル技術を用いて地方の魅力を高めることで、持続可能な発展が可能になると言われています。デジタル田園都市構想に対する理解を深めるため、具体的な内容やメリットについてわかりやすく解説します。
デジタル田園都市国家構想とは
デジタル田園都市国家構想とは、2021年に岸田文雄首相が所信表明演説にて提唱し、翌年に閣議決定された政策のこと。「新しい資本主義」を実現するための、重要な柱の一つと言われています。まずはその、概要や目的について学んでいきましょう。(※1)
デジタル田園都市国家構想の概要
現代日本が直面している課題の一つが、地域産業の空洞化です。東京圏への産業や人口の一極集中が進むにつれて、地方の産業は失速。「暮らし」や「仕事」、「経済」などにおいて、都市部と地方の間には非常に大きな格差が生まれています。
これまでも政府は、地方創生に対してさまざまな支援を行ってきました。新たに提唱されたデジタル田園都市国家構想では、地域活性化のための鍵として、デジタル技術を挙げています。デジタル技術を用いて、以下の4つの視点で対策を行うことで、地域活性化のための良い流れが生み出されるでしょう。
- 地方に仕事をつくる
- 人の流れをつくる
- 結婚・出産・子育ての希望をかなえる
- 魅力的な地域をつくる
次々と新たな技術が誕生しているデジタルの世界。デジタル田園都市国家構想のもと、地方におけるデジタルインフラ整備やデジタル技術の実装が進められています。年齢や性別、地理的条件にかかわらず、誰一人取り残されないデジタル社会を実現することが重要視されているのです。
デジタル田園都市国家構想の目的
デジタル田園都市国家構想が具体的な目的として挙げているのは、デジタル技術を用いて「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を実現することです。同じ日本という国の中でも、都市部での生活と地方での生活には大きな差があります。人口流出が食い止められない地域においては、教育や医療など、生活に必要不可欠なサービスを十分に受けられないケースも。デジタル技術を活用すれば、こうした格差を解消できる可能性があります。地域の魅力はそのままに、都市部と変わらない生活を送れるようになれば、よりゆたかな生活につながるでしょう。
デジタル田園都市構想では、「心ゆたかな暮らし」(Well-Being)と「持続可能な環境・社会・経済」(Sustainability)の両立を目指しています。都市部への一極集中だけでは不可能な目標も、デジタル技術による地方創生が成功すれば、実現可能に。私たちの今後の生活に直結する政策として、今後もその動向を注視する必要があるでしょう。
デジタル田園都市国家構想の重要性
現在、国が多額の予算を投じ、推進しているデジタル田園都市国家構想。「いったいなぜ…」と感じている人もいるのではないでしょうか。その重要性について、意義とメリットという2つの側面から解説していきます。
田園都市とデジタルの融合の意義
ゆたかな自然に囲まれた田園都市。デジタルとの融合によって、地方ならではの「不便・不安・不利」といったデメリットを解消できるという意義があります。
2020年の新型コロナウイルス感染拡大以降、都市部にはない魅力に注目する人も増加しました。デジタル技術の積極的な活用により、リモートワークが可能な環境を実現。「都市部での仕事を維持しつつ、地方に生活基盤を置く」といった生活スタイルも、注目を集めるようになったのです。
一方で、地方に目を向ける人が増えたからこそ、社会課題はより明確に。地方が活力を取り戻すためには、先ほど挙げた3つの「不」を解消することが求められています。デジタル技術で距離の壁を超えられれば、「不便」や「不安」は解消可能です。地方の魅力を世界に向けて積極的に発信すれば、新たなチャンスも呼び込めるでしょう。「不利」な状況を突破し、多様で創造的な付加価値を提供できる可能性があります。
デジタル田園都市国家のメリット
デジタル田園都市国家が実現した場合、以下のようなメリットが生まれると考えられています。
- 地域課題に縛られず、自身の理想に合った生活スタイルを手に入れられる
- 新たな雇用が生まれ、「地方には仕事がない」という問題を解決できる
- 各種行政手続きのデジタル化により、手続きが簡単になる
- 東京への一極集中を解消し、人口減少を食い止められる可能性がある
地方での生活に魅力を感じつつも、都市生活の利便性を手放せないという思いから、移動を断念する人は決して少なくありません。デジタル田園都市国家が実現し、全国どこからでも便利で快適な生活を送れるようになれば、より自由な視点で住む場所を選択できるでしょう。結婚や子育て、介護や仕事などへの不安も解消できます。
また現在日本が抱えている人口減少の問題も、デジタル田園都市国家構想により解決できる可能性が。人口減少は、特に地方において進行中です。地方での生活が安定し不安を解消できれば、食い止めるための一助となるでしょう。
デジタル田園都市国家構想の具体的な要素
デジタル田園都市国家構想を実現するためには、どのような要素が必要となるのでしょうか。3つのポイントを具体的に紹介します。
ICT技術の導入
デジタルと田園都市の融合を目指す上で、欠かせないのがICT技術です。医療・教育・交通・農業・防災など、さまざまな分野において、デジタル技術の実装が必要になります。各種サービスを受けたり情報共有したりするための端末の配置や、新システムの導入などがこちらに当てはまるでしょう。また、技術だけを導入しても、使えなければ意味がありません。導入したICT技術を問題なく活用するための知識・スキルの習得も、非常に重要な要素と言えます。
インフラ整備の促進
都市部と地方の格差を解消するための施策として、推し進められているのがインフラ整備です。高速通信を実現する5G網の整備や光ファイバの設置といったデジタルインフラはもちろん、公共交通ネットワークの再構築も進められています。地方においても、情報・人・物を快適に移動できる環境を作ることで、不便の解消につながるでしょう。観光や移住など、都市から地方への人の流れを生み出すための要素としても注目されています。
スマート農業の推進
地方の魅力を高め、経済を活性化させるための要素として、注目されているのが農業です。ロボット技術やICTの活用によって、業務負担を軽減しつつ効率的な生産を目指せます。
農業の魅力を高めることで新規就農を促すとともに、就農人口の高齢化への対応も可能に。地方での仕事創出だけではなく、地方ならではの魅力を発信するのにも効果的です。ベテラン農家が持つ熟練の技術を、若い世代へと受け継ぐための施策としても、高い効果が期待されています。
デジタル田園都市構想の実現に向けた取り組み
デジタル田園都市構想実現に向けた各種取り組みは、2022年より本格的にスタートしています。私たちの生活に深く関わる政策だからこそ、具体的に何が行われているのかにも注目してみてください。
国家政策の策定
デジタル田園都市構想は、国が政策として推し進めているもの。2022年12月には、2023年度~2027年度を想定した「デジタル田園都市国家構想総合戦略」を発表しています。その中で、地方のデジタル実装に向けて、政府は以下のようなKPIを公表しています。
- サテライトオフィス等を設置した地方公共団体を2024年度までに1,000団体、2027年度までに1,200団体へと増加
- デジタル技術も活用し相談援助等を行うこども家庭センターの全国展開(1,741市区町村での設置)
- 2025年度までに1人1台端末を授業でほぼ毎日活用している学校の割合100%(小学校18,805校、中学校9,437校)を達成
- 2025年度までに業務の自動化・機械化やデジタル化により、DXを実現している物流事業者の割合70%(約3万5千事業者)を達成
- 2027年度までに、3D都市モデルの整備都市を500都市へと増加
またこれらの取り組みの前提として、以下のようなKPIも位置付けています。
- 2027年度までに光ファイバの世帯カバー率99.9%を達成
- 2023年度に95%、2025年度に97%、2030年度に99%の5Gの人口カバー率を達成
- 地方データセンター拠点の整備
- 日本周回の海底ケーブル(デジタル田園都市スーパーハイウェイ)の設置
- 2026年度までの類型で、230万人のデジタル推進人材の育成
- 2027年度までにデジタル推進委員を5万人にまで拡充
国が行う政策で重視されているのは、「誰一人取り残されないための取り組み」です。基本的なインフラ整備における地域間格差を解消するとともに、世代間におけるITリテラシー格差の是正にも配慮しています。ICT技術を用いて、誰もが快適で安全な生活を維持できるよう、さまざまな取り組みが行われています。(※2)
地域の参画と協力
デジタル田園都市構想を実現させるために、欠かせないのが地方都市の参画と協力です。後押しのため、国は以下の3つのタイプに分けて補助金を交付しています。
- デジタル実装タイプ
- 地方創生拠点整備タイプ
- 地方創生推進タイプ
令和5年度の交付金予算額は1,000億円と、充実した支援を実施。地域の実態に即した施策を経済面からサポートしています。(※3)
また「スマートシティ」や「スーパーシティ・デジタル田園健康特区」、「産学官協創都市」に「中山間地域」、「SDGs未来都市」「脱炭素先行地域」といった重大課題についてはモデル地域が設置されています。実際にその土地で人々が生活しながら、さまざまな取り組みに参画・協力しています。
市民意識の啓発
デジタル田園都市構想実現のためには、市民意識の変化も必要です。国や自治体は、さまざまな啓発活動を行っています。
たとえば、マイナンバーカードの普及は、国が推し進める重要施策の一つ。カードの発行や健康保険証との連携等によりポイントがもらえるのは、普及率向上のための啓発活動と言えるでしょう。地方自治体や企業も、「デジタル技術の活用により、どのようなメリットを得られるのか」を積極的に発信しています。
デジタル田園都市国家構想の今後の展望
デジタル田園都市国家構想は、スタートから間もない施策であり、今後どう展開していくのかが注目されています。将来の可能性についても、ぜひチェックしてみてください。
国内外での好評と普及の可能性
日本が抱える各種社会問題を、デジタル技術を用いて解決に導こうとするデジタル田園都市国家構想。地方の良さはそのままに格差を埋め、誰一人取り残さない形でより便利で快適な暮らしを目指しています。補助金制度に数多くの自治体が応募するなど、注目が集まっています。官民連携のプロジェクトも多数進められており、今後はさらに普及していくでしょう。
またデジタル田園都市国家構想は、海外とのつながりも意識したもの。地方の魅力をより強く発信できるようになれば、インバウンド増加につながるでしょう。政府においても、デジタル田園都市国家構想とクールジャパンとの連携により、海外への情報発信を行っています。今後の動向にも注目していきましょう。
※1 https://www.kantei.go.jp/jp/100_kishida/statement/2021/1008shoshinhyomei.html
※2 https://www.soumu.go.jp/main_content/000853677.pdf
※3 https://www.chisou.go.jp/sousei/about/kouhukin/pdf/denenkohukin_2022_gaiyou.pdf