ごみ減量資料室代表・東洋大学名誉教授
山谷 修作
有料化の手数料が高いほどごみ減量効果が大きくなることはよく知られている。だが、国際的に視野を広げると、この常識が必ずしも当てはまらないことに気づく。
米国では全国のおよそ3割の自治体が家庭ごみを従量制で有料化している。日本では市区町村の有料化率が3分の2程度に達しているから、自治体有料化率は日本の方が高い。しかし、手数料の水準については、日本の有料化がごみ処理費のせいぜい2~3割程度をカバーする「一部有料化」であるのに対し、米国自治体の有料化制度の多くは一般会計とは切り離された事業特別会計(Enterprise Fund)として運用され、手数料収入でごみと資源物の収集処理費をすべてまかなうこととされている。
典型的な単純従量制(Variable Rates)を採用するテキサス州フォートワース市(人口約96万人)の手数料を見ておこう。市民は市に申し込んだごみカート(車輪付きの収集容器、写真A)容量に応じて月額手数料を支払う。収集頻度は週1回であるから、1週間分のごみ量に見合う容量のカートを選ぶことになる。
容量32ガロン(121ℓ)のカートを契約すると月12.75ドル、64ガロンなら月17.75ドル、96ガロンなら月22.75ドルが課金される。カートに入りきれないごみを出す場合、1枚3ドルの指定袋に入れてカートの脇に置く。カートの容量を変更する場合、市に変更の申請をしてカート交換手数料を支払う必要がある。
紙類やびん、缶、ペットボトルなどの資源物は、市から貸与された容量64ガロンの資源物回収カート(写真B)に入れて道端に排出すると無料で回収してもらえる。このほか、希望すれば、庭ごみ(剪定枝や草葉)の有料回収の申し込みもできる。
米国の都市では、収集運搬車に自動積み込み機が装備されていることが多い。自動式の場合、作業員はアームを操作するだけで収集容器を持ち上げてごみを積み込むことができるから、きわめて効率的に収集作業をこなせる。
ごみ収集カートの容量別の従量課金方式は、自動積み込み機を搭載した大型の収集運搬車による収集システムに適しているという利点がある。しかし他方で、容量切り替えには申請が必要で、カート交換手数料がかかることもあって、申し込んだ容器の容量が固定化される傾向があり、減量インセンティブが強く働かない。
家庭ごみ有料化によるごみ(資源物を除く処分ごみ)の減量効果については、全米の1000以上の有料化自治体からの情報提供をもとに、16~17%とする調査がある1)。ごみ処理費用のすべてをまかなう手数料を設定して、この程度の減量効果である。
これに対して、日本の家庭ごみ有料化では、一部有料化に過ぎないにもかかわらず、処分ごみについて中心的な1ℓ=1円程度の手数料水準で16%(有料化実施翌年度)~19%(有料化実施5年目の年度)と、米国と遜色のない減量効果が得られている2)。
ごみ処理費の2割程度をカバーするに過ぎない手数料水準の有料化で、フルコストプライシングの米国有料化とほぼ見合うだけの減量効果が日本で出ているのはなぜだろうか。その主因は、日本の有料化制度で透明・半透明の有料指定袋を用いることによる「見える化」と「排出容器の容量変更の容易さ」ではないかと思う。
中身の見えないごみ箱型収集容器を車両に自動積み込みする米国では、収集時に分別状況を確認できないから不適正な排出が多くならざるを得ない。これに対して日本の制度では分別状況が悪い指定袋については注意シールを貼付して取り残すなどの指導がしやすい。
さらに、米国ではごみ収集容器の容量切り替えが、申請や手数料を要することもあり、手控えられる傾向がある。そうすると、定額制手数料の位置づけに近くなり、減量インセンティブがあまり働かなくなる。これに対し日本の指定袋制では、家庭においてごみ減量の取り組みが進むにつれ、指定袋取扱店の陳列棚からより小さな容量の指定袋を手に取るだけで、簡単に容量を切り替えることができる。ちなみに筆者の調査では、1ℓ=2円の比較的高い手数料を設定する自治体においては、最も多く取扱店に納品される容量種は20ℓ袋、次に10ℓ袋となっており、一部の自治体では10ℓ袋が最多となっていた3)。
日本の有料指定袋制度は、分別適正化の指導がしやすいだけでなく、減量の取り組みが指定袋のダウンサイジングにつながり、経済的負担の軽減に直ちに結びつくわけで、減量へのモチベーションを高めることができる。欧米有料化で主流のごみ箱収集システムと比較して、わが国有料指定袋制がすぐれた資質を具備することは、シン常識として、もっと認識されてよいのではなかろうか。
注
1) Skumatz, L.A., “Pay-as-you-throw in the US, Waste Management”, October 2008.
2) 日本の家庭ごみ有料化による減量効果については、山谷修作ホームページ「2000年度以降家庭ごみ有料化155市のごみ減量効果」を参照されたい。
3) 山谷修作(2020)『ごみ減量政策』第10章「有料指定袋の容量種と形状」を参照されたい。
その他山谷修作著書参考資料はこちら
表 フォートワース市家庭ごみ手数料(2024年7月現在)
・ごみ収集容器(カート)の月額手数料 32ガロン=$12.75 64ガロン=$17.75 96ガロン=$22.75 *カート交換手数料=$5.00 ・超過ごみの手数料 指定袋1枚=$3.00 ・資源物の回収容器(カート) 64ガロン=無料 ・庭ごみの回収容器(カート)(申込は任意) 96ガロン=$75.00 |