政府が推進するDX化の流れを受け、各自治体では自治体アプリの導入が進んでいます。
自治体アプリは従来では対応が難しかった地域の課題を解決する手段の一つとして注目されており、すでに導入している自治体も少なくありません。
この記事では、各自治体における複数の導入事例を紹介するとともに、自治体アプリの概要や活用実態、導入のメリット、導入の際に留意するべきポイントなどについて詳しく解説します。
自治体アプリとは
自治体アプリとは、公的制度、イベント、サービスなどの情報を自治体が市民に向けて発信できるツールです。種類は幅広く、自治体の情報を総合的に発信するタイプ、専門ジャンルに特化したタイプ(ごみ分別、子育て支援、防災など)などさまざまなものがあります。
従来は住民が手間暇をかけて調べなければいけなかった情報でも、自治体アプリを導入することにより必要なときに手軽に入手できることは大きなメリットです。
自治体アプリの導入は、自治体と市民の双方で利便性が高まります。また、自治体は公式サイトやSNSなど複数の発信ツールを一元化することで、素早い情報発信が可能になります。
いっぽう、市民はリアルタイムで地元の情報を受信できるため、生活に関する情報を入手したり、災害時の緊急対応において取り残される心配がなくなるなどの有益性を感じるでしょう。
【自社調査】自治体アプリの活用実態
すでに複数の自治体で導入されている自治体アプリですが、活用実態はどのような傾向があるのでしょうか。
2023年7月25日~9月20日におこなわれた「G-Place自社調査アプリ実態調査」の結果を参考にしてご紹介します。
自治体アプリの配信率
日本全国の1,747市区町村中、1,551自治体(88.8%)が自治体アプリを配信しています。未配信の地域は196自治体(11.2%)と少なく、配信はスタンダード傾向にあると言えるでしょう。
都道府県別アプリ配信数
2022年末時点の都道府県別自治体アプリ配信数を集計した結果、東京都が最多で255件、次いで北海道(227件)、埼玉県(214件)、愛知県(216件)、大阪府(186件)という結果です。
また、2018年から2022年までの累計配信数では、47都道府県の68.9%にあたる32都道府県で2倍以上に増加しました。
とくに山形県(3.46倍)、徳島県(3.09倍)、茨城県(3.00倍)、香川県(3.00倍)、三重県(2.74倍)で高い増加傾向が見られます。
カテゴリ別アプリ配信推移
カテゴリ別の配信推移では、総合、ごみ、広報、子育て、防災、観光など多岐にわたります。その中では広報分野が2015年から2022年まで一貫して最多になっていますが、全体的に増加傾向があることも確かです。
とくに防災関連のアプリでは増加が歴然としており、有事・災害時における地域の安全確保への関心が高まっていることがうかがえます。
また、子育てに関するアプリも増加が見られました。コロナ禍で子育て支援サービスのオンライン化が推進されたこと、母子手帳の電子化などが要因だと考えられます。
自治体アプリ導入のメリット
自治体アプリを導入することによって生まれるメリットは、大きく分類すると3つ挙げられます。
情報の一元化と効率化
自治体アプリの導入により、情報の一元化と効率化が実現します。
公式サイト、SNS、メールなど、従来は分散していた複数の情報源を一つのアプリに統合し、集約された情報プラットフォームを構築できることは間違いありません。
自治体は業務効率化が進み、市民は必要な情報を素早く効率的に探せるようになります。
プッシュ通知で届けたい情報を市民へ素早く届ける
アプリならではのプッシュ通知が使えることも強みです。
市民のデバイスでアプリからの通知設定がオンになっていれば、自治体は届けたい情報をプッシュ通知で素早く配信できます。
市民も重要な情報を見逃しにくくなり、生活の質の向上や緊急時の重要情報を取りこぼさないなどの満足感・安心感を得られるでしょう。
新たな情報発信
アプリを通して、地域の魅力や独自サービスを積極的に発信することも可能です。観光客へのPR効果が向上したり、地域住民が地元の魅力を再発見するきっかけにつなげられたりするでしょう。
自治体アプリ導入のためのポイント
自治体アプリのスムーズな導入にあたり、押さえておいたほうがよいポイントを4つまとめました。
市民の声を反映した開発
実際に利用する市民が使いやすいアプリであることは何よりも重要です。市民の幅広い層が共通して使いやすいかどうかの熟考、市民が期待する機能の入念な調査などは不可欠になるでしょう。
使いやすさと操作性の向上.
使いやすさ、操作性の重視も大切です。デジタルの操作が苦手な人でも分かりやすく直感的なデザインやメニュー配置は、市民がアプリに親しみを感じる要素です。
使いにくいアプリはユーザーにとってストレスとなり、アンインストールされる可能性もあります。
セキュリティ対策の徹底
どれほど使いやすく、優れたアプリでも、セキュリティ対策に穴があっては安全な運用ができません。データの暗号化、データの保護などを徹底したアプリを導入しましょう。
コスト削減のための工夫
アプリの開発には開発資金が必要です。また、運用時にはそのコストも考える必要があります。必要な機能を備えたアプリの開発・運用が可能、かつ、無駄なコストを削減するよう工夫しましょう。
自治体アプリ導入事例
すでに運用されている自治体アプリの導入事例をご紹介します。
【奈良市】奈良市ごみ分別アプリ
奈良県奈良市では、ごみの分別をサポートする自治体アプリを導入しています。
ごみの分別を検索できる「ごみ分別事典」、収集日カレンダーや分別ごとの収集日を知らせるアラート、さらに楽しみながらごみの分別が学べるミニゲームなど、利便性と娯楽性、学習性を搭載したアプリです。
【八尾市】生活応援アプリ「やおっぷ!」
大阪府八尾市では、総合タイプのアプリを活用しています。
カバーしている情報ジャンルは非常に広く、防災、ごみ、子育て支援、道路の危険箇所の通報・登録など、一つのアプリで分野ごとの情報を素早く収集できる特徴があります。
【一関市】いちのせき道路通報アプリ「いちパト」
岩手県一関市では、市民が道路の破損箇所や発見した異状を通報できるアプリを導入しました。
目標物がない場所でも位置情報を利用して正確な場所が特定できる、写真添付によってスピーディーな現場確認ができるなど、行政と市民で協力しながらの道路維持管理を実現しています。
【吉川市】吉川公式減災ナビ
埼玉県吉川市で導入されたアプリは、防災・減災に関して幅広く活用できるタイプです。
避難情報・イベント情報・防災行政無線の放送内容の配信や、緊急時に避難所が確認できます。避難所マップ、平時から確認できるハザードマップなど、市民の防災意識を高め、安全な生活を守るために活用されています。
【東村山市】ロカスタ
東京都東村山市では、地産地消を推進する情報発信アプリを導入しています。
従来は4年スパンで配布していた紙ベースの直売所情報をはじめ、農業に関する情報や地産地消に関心を持つ飲食店の情報をアプリで随時配信することにより、地産地消関連の情報が市民に行き届くようになりました。その結果、市内の営農が活発化するという好影響が生まれています。
自治体アプリ導入の課題解決策
自治体アプリ導入についての課題は複数ありますが、いずれも対応できないものではありません。それぞれの解決策について見てみましょう。
市民のニーズを徹底調査
アプリの目的や機能が市民のニーズとマッチするよう、徹底的な調査をおこないましょう。
公式サイトやSNS、メールを利用したアンケートなどで意見を募ったり、実際に稼働する中で人気のサービスを把握する工夫が有効です。
シンプルで使いやすいUIの設計
UI(ユーザーインターフェイス)はシンプルで誰でも操作できるような使いやすさを意識しましょう。専門知識のある人、アプリ操作が得意な人だけが使いやすいUIでは宝の持ち腐れになりかねません。
とくに見やすさ、操作性への配慮は、実際に使用する市民がアプリに対する愛着を持ち、継続して活用する要素になります。
セキュリティ対策の強化
アプリの導入・運用にセキュリティ対策は欠かせません。運用に関わる担当者だけではなく、自治体全体の職員がセキュリティ意識を高めるよう、啓発行動やセミナーを活用しましょう。
市民との積極的なコミュニケーション
余裕があればアプリについて意見交換の場を設けると良いでしょう。地域イベントの開催時に意見を募る時間を設けたり、オンライン相談窓口を設けたりするといった方法を検討してみてください。
また、市民が積極的に意見や要望を言いやすい雰囲気作りもおすすめです。
自治体アプリ導入の課題解決策
実際に自治体アプリを導入するにあたり、どのような効果が期待できるのでしょうか。
業務の効率化と負荷軽減
情報発信業務にはコストがかかります。とくに複数の媒体を使った発信は、担当職員の業務を圧迫する原因になりかねません。
自治体アプリで一元化することにより、担当職員の業務効率化や負担の軽減に繋がるでしょう。
市民満足度の向上
使いやすく、情報が集約された自治体アプリの利用により、市民は自分に必要な行政サービスの情報の入手が従来よりも容易になります。
生活がより便利になり、満足度が向上するでしょう。また、そのような満足度は住んでいる土地への愛着に繋がり、住民の流出を防ぐ要素にもなるでしょう。
地域の活性化と市民参加の促進
自治体アプリを制作することで、市民にとって有益な情報発信が容易になります。
その結果、地域活動が活性化し、市民が自主的に参加して楽しむ場や意見交換の機会を増やせるでしょう。市民が地域の魅力の再発見し、外部へアピールする機会が増えれば、さらなる地域の活性化に繋がっていくに違いありません。